「晶哉、タメ語で喋ろうや」から心的距離と文末表現について考えたお話。

●はじめに。

こんにちは。こんばんは。
初めましての方。二度目ましての方もいらっしゃるかもですね。
ご来訪いただきありがとうございます。

ざっくりとこの記事について説明します。

・メインは言語学のおはなしです。
・相変わらずこれは自分のための書きもので、考えを押し付けるものではありません。
(じゃあ公開するな!という方。それも一理あります。自己満足にすぎません。)
・まだ完成ではありません。のちのち書き足していくつもりですが、聞き逃しがあるうちにまず記事をあげようと思った次第です。
・この記事単独でも楽しんでいただけると思いますが、前回の記事のおまけとして書いているので、前回説明している用語などを出しているかもしれません。
 

yurietty-pon.hatenablog.com

↑前回の記事です。気が向いたら読んでみてください。
 

いまだに目次の作り方を学んでいないアナログ人間です。
以下に項目だけ載せます。

●はじめに。
●前回のあらすじ。
●扱ったデータについて。
●分析方法。
●結果。
●終わりに。

このようなかんじで書いてゆきます。


●前回のあらすじ。

先日、佐野さんのタメ語についてのブログを書いたところ、たくさんの方に読んでいただきました。
読んでくださった方、本当にありがとうございます。

とはいえまだまだ研究不十分。卒論が終わっても佐野さんのタメ語を追っていきたい…と思いながら聞いていた、2021年1月30日の『らじらー!サタデー』の中の1コーナー。

~晶哉、タメ語で喋ろうや~

私このコーナー作ったっけ!?

と焦るくらい私にぶっ刺さる企画が爆誕していたわけです。

こんなん、分析せずにどうすんねん、ということで、さっそくチャレンジしてみました。
 
●先行研究。
 
というか、語句の説明ですね。
前回と違うアプローチを行ってみるので、その説明をちょこっと。
 
今回は、会話分析の手法を用いて、発話の数を数えてみます。
 
ターン:発話の順番
完了可能点:1つの発話順番が終わるぞ、というのが聞き手に伝わる箇所
順番構成単位(TCU):完了可能点を迎え、1つの発話順番を構成することができる言語的単位
移行適切場(TRP):順番交替が生じる可能性がある場所(ひとつのTCUが完了可能点に到達するとき、原則としてそこがTRPである)
反応機会場:TCUの内部に現れる、聞き手が反応してもよい場所
 
……みなさん、完了可能点と、移行適切場と、反応機会場の違い、伝わりますか……?
私はいまだに、どゆこと?となることがあります。間違ったことを書いていないか不安です。
 
TCUは、文法的に完全でなくても、節や句、語のみでもなりうるのが特徴です。
発話者が「これで自分の発話終わりなんで!次誰かしゃべってええよ!」となるタイミングで1つのTCUが生まれる、というかんじです。
 
自然会話でトークを"まわす"人がいなくても比較的スムーズに会話ができるのは、無意識に完了可能点を迎えたことを察知して、次のターンを取る、というふうにしているためです。
 
しかしながら、TCUって拡張することがあるんですって。
ややこしいのでここでは飛ばしちゃいます🏌
 
TCUというのがひとつの発話のまとまりではありますが、反応機会場ではTCUの途中で聞き手が理解しているかな?話伝わってるかな?と確認することができる場所ってかんじ。
聞き手は、反応機会場であれば、TCUが最後まで終わらなくても(完了可能点に到達する前に)、なにかしらの反応を示すことが可能になります。
 
私も書いててよくわからなくなってきそうなので、実際のデータを見ながら改めて考えてみます!


●扱ったデータについて。

改めましてにはなりますが、今回扱ったデータを紹介します。

2021年1月30日放送のNHKラジオ第一『らじらー!サタデー』にて、MCの浜中さんとゲストの佐野さんが、先輩後輩を気にせずタメ語で喋ってみようというコーナー、「晶哉、タメ語で喋ろうや」内の2つのエチュードと呼ぶことにします)を分析していきます。


(A)テーマは、「二人で遊びに行くならどこへ行きたいか」。
エチュードの長さは約1分47秒。
両者の関係性は「ほんまにめちゃ仲いい友だちぐらいのタメ語」を使用する者同士であると指定されています。

(B)テーマは「目玉焼きにはなにをかけるか」。
エチュードの長さは約1分36秒。
両者の関係性は「仲良くしてもらってる先輩に対して、ちょっと敬語抜けてきてるな、くらい」な後輩を佐野さんが演じています。


ここで、このふたつのデータを比較するにあたり個人的にどこが美味しいか(食うな)を紹介します。

データの長さがほぼ同じ
→これは比較しやすい。トーク内の話題がどれくらい展開していくかを観察するにもいいなあとおもったところ。

心的距離が違うということを明確に示している

…いや、ここよ、ほんま。

データの長さとか書いたけど正味ここよ。このデータの面白さ。

あくまで想像の範囲にすぎませんが、事前に"相手との心的距離がめっちゃ近い/敬語やめられるくらいは近づいている"を意識してエチュードを行うということは、その発話者が普段それらと同等距離にあたる人物に対してどのように話そうとしているのか、という意識が見えてくるはず、と考えました。


●分析方法。

先行研究の部分でもちょこっと説明していたとおり、まずTCUという単位で発話をわけていきます。
(TCU=発話、と変換すると読みやすいと思います😊
次に、TCUの内部に反応機会場があるものに関しては、そこでも小単位として区切っていきます。
 
続いて、それぞれの文末表現の特徴をピックアップしていきます。
 
また、音声的な特徴についてもみていきます。
発話のスピード、強弱、文末の下降/上昇イントネーションなど、目立ったものを中心に比較材料にしてみることにします。
 
 
なんせ分析期間数日の覚え書きなので、みなさんが気づかれたことあったらどんどんマシュマロ投げてください。

●結果。

・TCUの数
まずは両エチュードでの佐野さんのTCUの数です。
(A)のTCU…38個(1つのTCUにかかる時間平均約2.8秒)
(B)のTCU…20個(1つのTCUにかかる時間平均約4.8秒)
 
けっこう差が出ました。
会話のテンポ感が(A)のほうが速いことが分かりますね。
私もびっくりしてます😳
 
・反応機会場の数
次に1つのTCUに含まれる反応機会場の数です。
(A)の反応機会場(/1つのTCU)…平均1.24個
(B)の反応機会場(/1つのTCU)…平均1.52個
 
微妙な差ではありますが、TCUの数も踏まえて考えると、(B)のときはひとつのTCUをところどころポーズをとりながら、相手の反応を見ながら発話していることが数値からみえてきます。
 
 
・文末表現の特徴について
ここでの文末は、TCUごとに見てゆきます。
これ、個人的におもしろかったです(感想)
 
(A)は、特に後半、完全文の言い切りが多くありました。
 
(例1)
01: F >あでも俺<文ちゃんとカラオケ行きたい.
02:   (1.7)
03: H .hhhh
04:   (0.4)
05: F 文ちゃんカラオケ↑行こうや::.
06: H カラオケ行く:?=
07: F =歌聞きたいやん文ちゃんの.
08:   (0.5)
09: H ゜あ::[:゜]
10: F     [大]好きやからさ:.
11: F 知ってるやろ?
12: H あ:::[ : ]      [あ : : : : ]
13: F     [文]ちゃんの歌[大好きなん]
 
(会話例内の記号について、このブログの一番最後に一覧載せておきます!)
 
こことかね。
畳みかけというかテンポ感もすごいんですけど、文末を見てみると、
「や」や「さ」で強調することはあっても、文末を和らげている印象はあまり感じられません。
発話行為を見てみても、勧誘したり、自分の気持ち述べたり、質問形使ってみたり。
浜中さんの返事の隙を与えずどんどん突撃しているかんじがします
 
 
一方の(B)ですが、こちらは対称的に、文末を和らげようとしている表現が多々見られます。
 
(例2)
01: F ヨコ::>が目玉焼き食いに行こうって言うならもう<僕は::::ねえ.
02: H .hhうんhh
03: F そりゃ::(0.4)喜んでついてく[::::]:↓けどなあ.
04: H                [¥うん¥]
05: H hhうん=
06: F =ヨコ一枚じゃ済まんから::.
07: H huhahhahha[ h a h h ]
08: F       [美味しいって]言っちゃったら=
09: F =いっ[ぱい出て来]ちゃうからヨコ.
10: H    [hahhahha]
11: H haahhahha[hhha]
12: F      [まあえ]えとこでもあり悪いとこでもあるんやけど.
 
この辺ですね特に。
「けどなあ」、「から」、「やけど」などを使いながらあくまで自己意見の姿勢を貫いた発話を続けています。
浜中さんからの返答がないのは先ほどの(A)と同じですが、こちらでは佐野さんは話を新たに展開しようとせず、語りかけや強調の助詞を付与することもなく進んでいます。
 
また、3行目の文末に着目すると、「ついてく::::」と文末に到達する直前の音を伸ばしており、「↓けどなあ」と語尾は少しトーンを下げていることがわかります。
これも、文末表現の選択に迷いがある表れだと考えられます。
文末表現選択の迷いに関しては同様の現象がエチュード前半でもみられます。
 
もうひとつ、9行目にも注目してみましょう。
文脈的に「ヨコ」(=横山さん)の話をしているのは明らかであるのにあえて文末に倒置法的に「ヨコ」と付与しています。
これと同様の、倒置法的現象が(B)エチュード内にいくつか出て来ます。
(「美味しいとは言えへんかなヨコの前でも」や「美味い!って言いながらもうお腹いっぱいぐらいな、ジェスチャーでやるかな俺は」など)
 
倒置法をすることによる最も大きな変化は、文末表現が文末に来ないことだと考えられます。
つまりこの現象も、文末表現を避ける手段として用いられているのではないかと思われるのです。
 
・その他
上記のエチュードの断片を説明するときにも少し触れましたが、(A)は浜中さんからの問いかけに答える際に確認や質問を交えながら進んでいくのに対し、(B)は基本的に自分の意見を述べるだけにとどまっています。
……前回の私のはてブで先行研究のところまで読んでくださった方、なにかピンとくるものがありませんか…?
 
”独り言っぽい発話や自分に関する発話であれば、疎遠関係であってもダウンシフトしやすい一方で、質問や命令のような相手に訴えかける、相手を巻き込むような発話は働きかけが強く、心的距離がまだ縮まり切っていない相手に対してはダウンシフトをしづらい、と指摘されます”
 (2021/02/02 『佐野さんのタメ語を卒論で扱ったお話。』より

 

(引用の使い方これで合ってるんかな…はてなブログわかんない……)
 
まさにこの先行研究が指摘したことがここで起こっていると考えられるのです。
 
 
とまあ、こんなかんじに、らじらーの1企画を言語学的に分析した結果でございます。
楽しい。楽しすぎる。
 
 
改めて全体の結果を振り返ると、心的距離の違いと発話の特徴について、こんな結論が言えるのではないかなあ、と思います。
 
心的距離が縮まるとダウンシフトできる発話内容が増える、という先行研究を、今回実例を用いて証明できた。
もしかしたら少し言い過ぎかもしれないので要検討ではあるけれど、TCUの数や発話行為を観察すると、心的距離が近いほうが「会話を展開させる」回数が多いと言えるのではないか?)
 
文末表現による聞き手への働きかけの強さを、発話者はきちんと意識している
(特に(B)で感じたことです。「かな」「けど」を使用したり、文末に到達する前に音を伸ばしたり、倒置法を用いて文末表現が文末に来ないようにしたり、さまざまな手段で働きかけを弱めようとしているのが読み取れます。)
 
心的距離が離れているほど、聞き手への働きかけの強さがFTAフェイス侵害行為)になる可能性があると意識して、働きかけの力を持っている文末表現や質問などの発話行為を避けている
(仲良くなりたいからこそ相手の気分を害さないように、円滑に会話を進めるために言葉を選んでいる、っていうのがこういう言葉で言い換えられるのかなと。)
 
こんなかんじです!!!!!!
ざっくりと。
 
 
おまけ。
これね、私がどうして分析したかったかっていうと、前回の卒論の裏付けをしたかったからなんです。
 
私はAぇさんを知ってまだ1年も経ってないファン見習いなので、前回の分析のときは「一緒のグループで活動している=親密関係」という思考で心的距離を断定してしまっていました。
でも本当は、彼らが一緒に活動するようになってからそれほどめちゃめちゃ長いとも言えないんですよね。
そもそもこちとらただのファンなので、メンバー同士の心的距離の変化がどれが正解かわからない。親密っぽくみせてるだけだと言われてしまえばそうですか…と言うしかない。わかりっこないことです。
 
今回の分析は逆に、架空の設定ではあるけれど心的距離をあらかじめ決めてあるエチュードでした。
ここから佐野さんの言語使用に対する意識を読み取ることができれば、卒論で扱った内容が「垂直かつ親密関係である」という断定をする要素になるんじゃないか、と考えました。
 
結果として、前回扱った佐野さんとAぇの会話におけるダウンシフトの特徴は、今回の(A)に近かったと言えると思います。
質問だってしてたし、ダウンシフトするとき文末表現で迷うような現象、ほとんどなかったもん。
 
というわけで、言語使用の意識として、佐野さんはAぇのメンバーに対して、心的距離が近い親密関係の相手に向ける方法で会話をしていると言ってもいいんじゃないかなあ。
ま、卒論には間に合わなかったんですけどね。ただの好奇心でした。
 

●終わりに。
 
最後までたどり着いてくださったみなさん。
本当にありがとうございます🙇
毎度毎度疲れさせてしまってすみません…
 
前回よりもだいぶアバウトな分析であることは自覚しています。
(そりゃ1週間で卒論並みの分析してたらヤバい。)
とりあえず!です。きっとたくさん追記します。もしよければまた1か月後くらいに読みに来てください。
 
そしてまたマシュマロ設置しますので、ご意見ご感想マジレスなんでも投げてください。どんどん参考にさせて頂きます。
 
 
 
ではまた。気が向いたときに、思い出したようにつらつらと書きに来ます。
ありがとうございました!
 
 
[参考文献]
串田秀也・平本毅・林誠(2017)『会話分析入門』勁草書房, 東京
 
(会話例内に使用される記号について)
[ ]  発話の重なり
=    前後の発話が区切れなく続いている
(数字) 沈黙の秒数
::   直前の音が伸ばされている
.   下降イントネーション
?   上昇イントネーション
↑    直後の音がそれまでと比べて高くなっている
↓    直後の音がそれまでと比べて低くなっている
゜文字゜ 弱い発話
hh   息を吐く音。笑いを示すこともある。
.hh   息を吸う音。笑いを示すこともある。
>文字< 発話のスピードが速まっている