しのぴょんの言語現象を観察したお話。

●はじめに。

 

こんにちは。こんばんは。

ご来訪いただきありがとうございます。

お久しぶりの投稿です。

 

今日は、かねてより分析したいと思っていた、

しのぴょんの言語現象

を観察したいと思います。

(『知ってるワイフ』が最終回迎えるのを待ってました。いや、終わってほしくはなかったんだけどな……)

 

目次は以下の通りです。

●はじめに。
●しのぴょんのキャラクターについて。

●語句の紹介。
●分析データ。
●分析方法。
●結果。

(●おまけ。3ヶ月後のしのぴょんと樋口さん。)

(●おまけ2。津山主任のアップシフト。)

●おわりに。

 

こんなかんじで書いていきます。

お時間許す方は、肩の力を抜いてゆるっと読んでくださったら嬉しいです😊 ️

 

 

●しのぴょんのキャラクターについて。

 

まず、しのぴょんって誰やねん!ってなった方のために、あっさりと紹介します。

ドラマ見ていた方は飛ばしちゃって大丈夫です◎

 

『知ってるワイフ』

2021年1〜3月期にフジテレビ系木10枠で放送されていた、全11話のドラマです。

主演の剣崎元春を演じるのは、大倉忠義さん。

ヒロインの建石澪役に広瀬アリスさん、同僚の津山千晴役に松下洸平さん、そのほか、瀧本美織さん、生瀬勝久さんなどが出演されていました。

 

ストーリーは、公式ホームページには以下のように紹介されています。

 

"本作は、「結婚生活、こんなはずじゃなかった!あの頃に戻って人生をやり直したい!」と日々嘆く恐妻家の主人公が、ある日突然過去にタイムスリップして、妻を入れ替えてしまうところから始まる物語。結婚生活5年目、夫も妻も相手への気遣いができなくなっていく頃、唯一の共通の思いは「なんでこの人と結婚してしまったのだろう」。そんな誰もが抱える結婚生活の不満と後悔をリアルかつコミカルに描きながら、「あの日、あの時に戻りたい」という悲痛な願いがかなってしまい、奇跡の人生を手に入れた主人公を通して、“自分にとって大切な人とはどんな人なのか?”“誰かと人生を生きていくとはどういうことなのか?”そんな夫婦の普遍的ともいえるテーマを追求していきます。SNSなどコミュニケーションツールが発達し誰とでもつながれる今の時代だからこそ、身近な人へ大切な思いを伝えたくなるハートフルストーリーです。"

https://www.fujitv.co.jp/shitteruwife/introduction/

 

(小声)ハートフルストーリーか!?見ていると元春にイライラもやもやしまくるドラマじゃなかったか!?素敵すぎる津山さんが完全なる当て馬で心を痛めてたぞこっちは!!!(津山さん拗らせ続けた私)

 

ま、今回このストーリーの本筋はほとんど関係ありません。笑

 

 

本題はここから!

 

この主人公、元春が勤めるあおい銀行の新人行員としてストーリーを静かに掻き回す(?)のが、篠原恭介くん。通称しのぴょん(またの名を、しのし)

演じているのは、みなさまご存知、

末澤誠也さん。

 

毎週、末澤誠也(関西ジャニーズJr / Aぇ! group)っていう表記見るの、すごく幸せでした。

余談です、はい。

 

しのぴょんのキャラクターについて、公式ホームページには以下のように紹介されています。

 

"『あおい銀行』世田谷支店、融資課の新人行員。いわゆる“ゆとり教育世代”。仕事はそこそこにそつなくこなし、やりたくないことはやらない。上司の命令に素直に従う元春たちを見ながら、「こんな風にはなりたくない」と内心思っている。一方で、IT会社の役員を務めている優秀な兄と比較されて育ったため、人からの評価に敏感。そんな劣等感を悟られないようにクールな人物を気取っているが、実は繊細で心優しい青年。くるぶしソックスを履いている。"

https://www.fujitv.co.jp/shitteruwife/chart/

 

さて、過去の私のはてブを読んでくださっている方はお気づきでしょうか…私が今回しのぴょんに注目した理由……

 

そうです、

新人行員ということは、基本的に他の行員に対して敬語を使用しているのです!!!!!!

 

普段敬語を使用しているしのぴょんがダウンシフト、つまり一時的にタメ語を使用する場面はどんなシーンなんだろう!?

というのが今回のブログのテーマです。

 

『知ってるシノハラ』

そんなしのぴょんが主人公となった、FODで配信されているスピンオフドラマ。

しのぴょんと、窓口課で働く樋口静香、尾形恵海の3人が中心でストーリーが進んでいきます。

話数は本編と同じく11話。長さは6〜7分程度のミニドラマです。

こちらではガンガンにしのぴょんが喋っているので、分析のしがいがあります。いえい。

 

 

………全然紹介あっさりできてなかった。笑

 

●語句の紹介。

 

今回、言語学の視点から分析するのに先立って、いくつか語句の紹介をします。

以前私のはてブを読んでくださっている方は飛ばしてください🐤

今回、久々に書くので、改めて掲載しようと思ったまでです。

 

 

まず、テーマにがっつり関係してくる現象がこちら。

 

スタイルシフト:発話のスタイルを変化させる現象(ここでは敬語⇔タメ語の変化)

ダウンシフト:敬語話者が一時的に発話のスタイルをタメ語に変化させる現象

アップシフト:タメ語話者が一時的に発話のスタイルを敬語に変化させる現象

 

そして、上記の現象が以下のような効果を持ちうる、とか関係してくるのがこちら。

 

ポジティブフェイス:相手と近づきたい、相手によく思われたい、という欲求

ネガティブフェイス:相手と距離を置きたい、私的領域に踏み込まれたくない、という欲求

ポライトネス:上記のフェイスを満たすための配慮

FTA(フェイス侵害行為):上記のフェイスを脅かす行為

 

ざっくり言うと、急にタメ語/敬語を使ったときに、相手によい効果を与えるならポライトネス、嫌な気分にさせるならFTA、ってかんじ。

(ざっくりしすぎて有識者に怒られそう…ごめんなさい…)

 

ダウンシフトがどのような効果を持つか、という先行研究についてはここでは詳しく説明しませんが、たとえば初対面の2者間会話で、心的距離の縮小緊張緩和といった効果をもつとき、ダウンシフトする発話内容には、聞き手への働きかけが弱い内容(自分に関する内容など)が選択されることが多く、働きかけの強い内容(質問、命令など)は避けられると述べられています。

 

また、タメ語のもつunofficialさ(うまく日本語訳できないんですよね…くだけた雰囲気、みたいなことです)という要素から、敬語でもタメ語でも許されるような関係性の話者同士の会話のとき、メインの話題を話しているときは敬語で、ちょっと脇道に逸れた話題になったときだけタメ語、なんていう例がみられることもあるようです。

 

で、さらに、僭越ながら私が卒論で研究した結果を追記すると、上記のほかに、親密関係である(けれども垂直関係があるため敬語使用が標準である)とき、聞き手との実際の関係性以外の要素を強調しようとするときにもスタイルシフトが起こりやすい、ということがわかりました。このとき、働きかけの強さなどは大きく関わらない、というのが私の研究の結果ではみられています。反対に、実際の関係性を優先する会話場面では、垂直関係を色濃く反映するため、働きかけの強弱にかかわらずダウンシフトは起こりにくいという結果が出ています。

 

 

そしてちょっと視点を変えて、発話の数え方について。

 

完了可能点:1つの発話順番が終わるぞ、というのが聞き手に伝わる箇所

順番構成単位(TCU):完了可能点を迎え、1つの発話順番を構成することができる言語的単位

 

今回はこのTCUごとに発話を区切って考えていきます。

TCUは、文法的に完全でなくても、節や句、語のみでも成立し、発話者が「これで自分の発話終わりなんで!次誰かしゃべってええよ!」となるタイミングで1つのTCUが生まれる、というかんじです。

 

 

こんだけいろいろ専門的っぽいこと書きましたが、さらっと読んでもらえたら大丈夫です!

とにかく実際の分析見てもらうほうがわかりやすいと思います😊

 

 

●分析データ。

 

今回、おもに注目するのは、

しのぴょんと樋口さんの会話場面

です。

 

比較参考にするために他の場面の言語現象も例を挙げたりしますが、注目はこの点です。

 

樋口さんは、まあなんやかんやあってしのぴょんに好かれ、しのぴょんを好いてゆきます(雑)

 

仕事場での立場としては、先述したようにしのぴょんが新人なので、お互いに好意を持ち始めてからも言葉遣いは基本的に

タメ語の樋口さん⇆敬語のしのぴょん

となっています。

 

具体的に扱うデータとしては、

・『知ってるワイフ』内にみられる2者の会話場面

・『知ってるシノハラ』内にみられる2者の会話場面

です。

時系列は、本編1話→スピンオフ1話→本編2話→スピンオフ2話……というふうに捉えることとします。

 

ただし、本編の1話は、タイムスリップする前の世界線で、2者及びその他の人物間の関係性が異なっている可能性があるため、分析はスピンオフ1話からスタートします。

同様の理由で、本編11話およびスピンオフ11話も、世界線が異なっているため、分析の範囲からは除外しています。

(見ていない方は、何言ってるんじゃ?ってなると思うのですが、スルーしてくださって大丈夫です。)

 

 

●分析方法。

 

まずはいつもと同様、2者の会話場面を文字起こししていきます。

参考までに、しのぴょんが話している場面は、相手が樋口さんではない場面も観察しています。

 

次に、会話場面中のしのぴょんの発話をTCUごとに区切っていきます。

 

それぞれのTCUの文末表現に着目し、

(a)敬語(丁寧体を伴った言い切り文)

(a')中途終了発話、敬語寄り

(b')中途終了発話、タメ語寄り

(b)タメ語(デアル調、またはそれに値する発話。丁寧体を伴わない言い切り文)

の4項目に分けていきます。

 

中途終了発話とは、接続詞などで終わっていたり、名詞句のみが発話されていたり、完全文とは言えず他の2項目に分類しかねるものを指します。

ただ、文末表現がなくても、文中にデスマス調が現れるものかそうでないか、や、反応ひとつとっても、「はい?」と「え?」だったら少し感じ方が違ってきたりしますよね。

そのため今回は、たぶん敬語意識で話してるんだろうな〜というものを(a')、たぶんタメ語意識で話してるんだろうな〜というものを(b')、と、中途終了発話を2項目に分けてみました。

 

具体的には、

はい/というのもですね…/あ、いや/ などは(a')

え?/あれ?/別に/あ、そうだ/はあ…/あーあ/ などは(b')

みたいなかんじです。

けっこう勘です。すみません。ただ、そこまで詳しく触れてないので許してください。

 

名前の呼びかけのみ、他の人や過去の自分の言葉の模倣は対象外としています。

(本編8話の「今から3秒後にキスをする。嫌ならよけて」は、スピンオフ4話の樋口さんの「今から3秒後に投げる。嫌ならよけて」の模倣なので、カウントせず、みたいなかんじです。)

 

また、少し迷ったのですが、今回は独り言的発話も対象外にしました。

その場に聞いている人がいる場合でも、対象外です。

(スピンオフ1話「すっごいパラパラだ…チャーハンみたい…」は樋口さんも尾形さんも傍で聞いていますが、発話者は受け手を意識して話しているわけではないのでカウントせず、みたいなかんじです。)

理由としては、伝達するという意識がある発話、受け手を意識した発話でのダウンシフトに絞って分析をすることで、より特徴が現れるのではないか、と考えたためです。

あとは単純に独り言的発話めっちゃ多かったので、含めてしまうとあとから割合を出すときにパッと見で結果がわかりにくくなるためです。

 

倒置法のように見えるような発話は、TCUの拡張が起こったと捉え、ひとつの発話単位として数えていきます。

(本編6話の「コーヒー飲んでましたよね?建石さんと」は、「ましたよね?」で文末表現が現れていますが、「建石さんと」直前のTCUの追加情報として捉えられるので、この発話でひとつのTCUとし、(a)敬語のカテゴリに分類する、というかんじです。)

 

ここまで行ってから、分析を二手にわけます。

 

①量的分析

4項目に分類された発話の割合を見ていきます。

その際、樋口さん相手の発話時、と、そのほかの相手の発話時、で分けて見てみます。なにか割合に違いが出るのかどうなのか…。

 

②質的分析

こちらでは、具体的にダウンシフトした場面を観察し、なぜここでしのぴょんはダウンシフトしたんだろうか?これは容認されうるのか?を考えていきます。

 

 

●結果。

 

①量的分析。

ではまず、先の4項目に振り分けた発話の数を見ていきましょう。

 

 

(a)敬語

(a’)中途終了発話

(敬語寄り)

(b’)中途終了発話

(タメ語寄り)

(b)タメ語

対樋口さん

48

(49%)

25

(25%)

20

(20%)

6

(6%)

対樋口さん以外

99

(57%)

45

(26%)

21

(12%)

8

(5%)

 

 

はい。こんなかんじです。

若干、樋口さんに対する発話のほうが(b’)や(b)といったタメ語交じりの割合が高めですが、誤差の範囲内なのかなあ、という気もします。

というのも、会話を交わしている場面を考慮すると、対樋口さんのときは比較的プライベートな内容も多い一方で、対樋口さん以外のときは、上司との仕事中の会話などもいくつも含まれているため、心的距離や垂直距離にかかわらずofficialな場面のために敬語になるということはじゅうぶんに考えられるからです。場面、という点で同条件ではないために、これくらいの誤差はありえるのかな、というのが今回の私の見解です。

むしろこの結果を見て、しのぴょん、仕事以外でもちゃんと敬語使ってるんだなあ…と感じたくらいでした。私は。

 

やってみたもののあんまり深く掘り下げられないですね、ここ。笑

 

②質的分析。

 

ここでは、しのぴょんと樋口さんの会話をより詳しく観察していきます。 

 

対象となる台詞のうち、しのぴょんが樋口さんに対してハッキリとダウンシフトしたのは、6回ありました。

そのうち、その場に尾形さんもいる場面で2回、2人きりの場面で4回、という結果。

少ないし、全部列挙してみますね。

 

(例1)スピンオフ1話より [3:32~]

01: 樋口  6月2日?

02: 樋口  あれ、待って。

03: 樋口  本能寺の変って、6月2日じゃない?

04: 篠原→ そんなこと今どうでもいいでしょ?

05: 篠原  あっ。

https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4t00/4t00110001/

 

(以下、会話例のあとに引用元URLを載せていきますが、FOD会員に登録している方しかご覧になれませんのであしからず…)

 

元カノへの手紙をシュレッダーでパラパラチャーハンにしたしのぴょんが樋口さんに逆ギレする(?)シーン。

この直前までは座り込んで落ち込んでいるのですが、4行目の台詞を言うときに立ち上がります。

4行目でダウンシフトした原因は、感情の高ぶり(イラつき)による「先輩-後輩」関係意識&樋口への敬意の喪失、だと考えられます。

敬語で発話するとしたら、「そんなこと今どうでもいいじゃないですか!」とかになると思うのですが、直感的に、なんか、「でしょ?」のほうが合ってるかんじが、しません?(押し付けるな)

これは、内容の伝達のためのダウンシフトというよりは、感情と連動したダウンシフトだといえます。

 

(例2)スピンオフ4話より [5:15~]

01: 樋口  今から3秒後に投げる。

02: 樋口  嫌ならよけて。

03: 樋口  1…

04: 篠原  いやいやいや、ちょっと待ってください。

05: 樋口  2…

06: 篠原  ねえ、ちょっと。

07: 樋口  3…

08: 篠原→ 待って待って。

https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4t00/4t00110004/

 

ウジウジしているしのぴょんに痺れを切らした樋口さんが、しのぴょんめがけてボールを投げつける直前のシーン。

これは4行目で一度同様の内容を敬語で発話してからの8行目でダウンシフト、という現象です。

具体的な原因はわからないのですが、こういった"繰り返し場面でのスタイルシフト"は、しばしば観察されます。繰り返し同じ内容の発話をする、ということは強調したいという意図が読み取れます。さらに、一度目の発話で受け手に満足に届いていない(と発話者が感じている)とも考えられます。このとき、届かなかった原因が聞き取りのトラブルによるものなのか、理解のトラブルによるものかで、繰り返しの特徴は異なっており、聞き取りのトラブル(電話が遠いとか、早口で話していたとか)であれば、同じ語句をもう一度明瞭に発話する、理解のトラブル(その語句を知らないとか)であれば、同じ内容を別の語句に置き換えて発話しなおす、という修復を行います。

ここでダウンシフトした原因は、焦り・余裕のなさによる関係性意識の消失&聞き手の理解のトラブル(聞こえているはずなのに待ってくれない)を修復するための言い換え、であると考えられます。

理解のトラブル(一度目に言った内容を聞き入れてくれない)が起きているときにダウンシフトが効果的なのか、は、先行研究にあたったわけではないので明確には断言できませんが、ダウンシフトをすることでより直接的な、相手に踏み込んだ言い方になるために、敬語のまま繰り返すよりは効果があるのではないかな、と思います。

 

…お分かりのとおり、ここの部分、割と憶測だらけです。すみません。

でも「待って待って」は先ほどの「でしょ」ダウンシフト同様、自然に容認できる気がするんですよね。ここでもう一回「待ってくださいって!」とはならない気がする。

 

(例3)本編8話より [15:15~]

01: 尾形  彼女出来たらしいんだよね。

02: 樋口  あーそっか。

03: 樋口  じゃあまたいい人いたら紹介して。

04: 篠原→ 紹介する。

05: 樋口  え?

06: 篠原→ 僕の先輩を紹介する。

https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4s88/4s88110008/

 

なんかもう、え?ってかんじ。

先の2つはあまり違和感なく容認できるタメ語だったのですが、これは聞いた瞬間、え!?ぴょん!?え!?ってなりました。私のFFさんも2人くらい「ダウンシフト…」って言ったくらいです。

なぜビックリしたかというと、先程の2つとは異なり、怒りや焦りなどの感情の急激な変化がみられず(というか4行目で突然話し出すから変化も何もないし)、笑いなどを伴ったユーモラスな発話でもなく、至って"通常の関係性を保ったまま""相手への提案という働きかけの強い発話内容で"ダウンシフトをしているからです。さらに、今回も繰り返し発話が観察されますが、一度目(4行目)も二度目(6行目)もダウンシフトしているので、勢いでタメ語になっちゃった、というわけではなく、ある程度意識的にタメ語を選択したのではと考えられます。

ここでダウンシフトした原因は、、、ちょっと一旦保留にしますね。(え?)

 

(例4)本編9話より [33:13~]

01: 篠原  なんですか?

02: 樋口  どういうこと?

03: 篠原  は?

04: 樋口  私に好きって言ったばっかなのに、もう恵海のことが好きなわけ?

05: 樋口  随分簡単ね。

06: 樋口  そんなコロコロ相手を変えれるなんて。

07: 篠原→ なんで怒るの?

08: 篠原  関係ないですよね。

09: 篠原  僕は樋口さんにフラれたんだし。

https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4s88/4s88110009/

 

ここもね、え!?ぴょん!?待って待って!?ってなったシーンです。

ここで面白いのは、(例3)同様に感情の急激な変化があったり笑いを伴ったりしない、という点に加え、7行目でダウンシフトした直後の8行目に敬語使用の発話がみられるところです。

え、お前さっきは連続したタメ語だから面白いって言うてたやん?というツッコミをされた方、確かにそのとおりです。でもここは繰り返し発話じゃないというのと、質問発話であるということがポイントかな、と。

樋口さんからの"非難"を受け、通常であればその発話内容に対する返答(弁解もしくは謝罪)がされるところ、しのぴょんは内容ではなく"非難"という発話行為自体に対して"質問"をする、という構成を取っています。これは、本来期待される返答がない&聞き手(樋口さん)に踏み込んだ内容である、という点で、失礼になる可能性を含んでいると考えられます。それをさらにダウンシフトして発話してるので、FTAにならんかな…とドキッとするわけです。

でも、主観ですが、失礼にはなってないんですよね。

その理由としてあげられるのが直後の敬語発話です。これがあることで、ダウンシフトが(例1)のような単なる敬意の消失や「先輩-後輩」関係を無視しようとしたわけではないと考えられるのです。

では、ここでダウンシフトした原因はなにか、ということですが、、、これも一旦保留にします!(放棄)

 

(例5)スピンオフ9話より [6:08~]

01: 篠原  ちょ、尾形さん、尾形さん

02: 篠原  樋口さんも

03: 篠原  痛いって、もう

04: 篠原→ からだが、からだが、ボロボロに、なる

05: 篠原  俺の、俺のから、だが、ちょ、

https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4t00/4t00110009/

 

尾形さんが暴走(?)して、しのぴょんをロッカーにガンガンぶつけるシーン。

ここは、正直分析対象に含んでよいのかちょっと微妙なんです。というのも、ご覧になった方はおわかりかと思うのですが、ここのしのぴょん、アドリブなのかな?若干関西訛り…?中の人出てきてる…?といったところなので、100%しのぴょんの発話だと捉えていいのか、うーん…といったシーンなのです。シナリオブック欲しいよう…。

とりあえずダウンシフトした原因を考えると、直接的な非難にしないためのダウンシフトじゃないかと、思われます。普通、ダウンシフトをすることで、受け手への働きかけが強くなる、と説明しているのに、なぜここでは逆になるのか、ですが、これは発話内容に関係しています。

この発話は、発話者に関する内容であり、聞き手である樋口さん尾形さんには関係のない内容です(ボロボロになる原因としては関わってるけど)。それを敬語使用、すなわち、"あなた(たち)に向けて僕いましゃべってますよ"という意識のもと発話すると、「なぜぴょんは自分の状態を彼女らにわざわざ伝えるのか?→その原因が彼女らにあると考えているからだ」、という推論が成り立ち、自分に関する内容に見せかけた聞き手への非難になる可能性がより高まると考えられるのです。そのためダウンシフトをすることで若干独り言的にしているのだと思われます。

ま、そんな複雑なことを考えて発話しているというよりは、無意識にそれを選択しているのだとは思いますが…。

 

 

というわけで、しのぴょんがダウンシフトした場面についてすべて触れたのですが、先ほど保留にした2つ、もう一度考えてみましょう。

 

正直、私にも正解がわかりません。

わからないけど、この2つ、ものすごく魅力的なダウンシフトなんです。

 

で、ひとつ共通点を見つけたんですよ。

この2つのシーン、どちらも、しのぴょんが、

樋口さんは自分以外の人を好いている、と思っている

という心理なんですよね。

「紹介する」のほうは、樋口さんが尾形さん経由で出会いを探していることが発覚した直後の発話、「なんで怒るの?」はフラれた直後。

 

……もしや、しのぴょん、自分以外の誰かを見ている樋口さんの気を引くためにダウンシフトをしている_______

 

お、お客さまの中に、このような心理状態について説明してくださる心理学専攻の方はいらっしゃいませんか!?!?

もしこれなのだとしたら、私には処理しきれん………

 

ダウンシフトの特徴のひとつ、"心的距離の縮小"が効果をもつのは、相手への働きかけが弱い発話だとされているので、本来このような提案や質問といった発話行為ではダウンシフトは起こらないはずです。

しかしながら、こういった、ある種嫉妬に近い感情を持っているとき、FTAになる危険性を孕んでまで聞き手との心的距離を急激に近づけようとするのであれば、もしそれが成功すればとても効果的……

だって現に傍観者である私はこの2つのシーンでキュンとしたし……

 

新たなダウンシフトの現象を見つけてしまった気がします。

みなさん、いかがお考えでしょうか。マシュマロください。

 

 

●おまけ。3ヶ月後のしのぴょんと樋口さん。

 

スピンオフ11話は、元春と澪さんがタイムスリップした世界でのしのぴょんたちの様子なので、今回は分析に含んでいませんが、こちら、非常にニヤニヤしながら拝見しておりました。

なぜかって…?

 

しのぴょん、樋口さんに対してめちゃめちゃタメ語なんすよ。

 

しかも、絶妙にちょっとぎこちなさが残っているんです。

以下の例をご覧ください。

 

(例6)スピンオフ11話より [2:40~]

01: 樋口  ねえこれは?

02: 樋口  デスクにあったけど。

03: 篠原  ああ、これじゃないかな。

04: 樋口  あ?

05: 篠原  これも好きなんだけど、もっといい消しゴムなんだよね。

06: 樋口  じゃあこれ?

07: 樋口  これもデスクにあったけど。

08: 篠原  これも違うかな。

09: 篠原  なんかこう、もっといい、消しゴムなんだよ。

https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4t00/4t00110011/

 

はい。これですよ。

完全にタメ語を使っておられる。

この世界線では、このとき付き合い始めて3か月ということなのですが、3か月の間にしのぴょん、タメ語を使うようになったのね…と号泣ものですこれは(それは嘘)。

しかも、3行目、7行目で文末に「かな」をつけているのが個人的にはさらに面白いなとかんじたポイントでして。文末表現を少し和らげているというか、タメ語ではあるんだけど少し働きかけを弱めているようなかんじがして、まだタメ語に慣れていないのかな?っていうのが見えるのが可愛い。

 

はい、以上、感情に任せたただの私の感想でした。

 

 

●おまけ2。津山主任のアップシフト。

 

しのぴょんと対照的な例として、津山主任の例もあげてみます。

……あ、いや?別に?津山主任好きすぎて書きたかっただけとかじゃ?ないですから??

 

…………ごめんなさい。嘘です。しのぴょん関係なく、ただ津山主任が好きなので観察してしまったまでです。

思ったより長くなってしまったので、お時間ありましたらどうぞ👐

 

津山主任は、今回しのぴょん分析を行った世界線では独身で、異動してきた澪さんに恋に落ちます。この恋の仕方がまあ可愛いし積極的だし健気だしまっすぐだし(以下略)

津山さんは主任という立場、澪さんは新しく異動してきたいわゆる新人という立場なので、「教える-教えられる」という垂直関係が生まれ、(津山主任は澪さんと心的距離を縮める目的もあったと思いますが)

タメ語の津山主任⇆敬語の澪さん

という状態でストーリーが進んでいきます。次第に仲を深め、心的距離が近づいていく中でもこの構図は変わりません。

そんな2人の会話の中で、一度だけ、唐突に津山主任がアップシフトをする場面があるのです。

 

(例7)本編4話より [27:08~]

01: 津山  建石さんはいつもたくましい。

02: 津山  (笑い)

03: 建石  はい。

04: 建石  津山主任は思ったより優しいですね。

05: 津山  思ったより…

06: 建石  はい。

07: 建石  あ、優しいのは女性にだけとか?

08: 津山  バレた?

09: 建石  もう。

10: 建石  (笑い)

11: 津山  (笑い)

12: 津山→ 冗談ですよ

https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4s88/4s88110004/

 

澪さんのお母さんの様子が心配だ、という話をしたあとのシーン。

1行目、それまでの少し深刻そうな空気を和らげるように、津山主任はユーモラスな音調で発話をしますが、「たくましい」と思っていることは真でしょう。それに対して澪さんは、「たくましい」という言葉に少しアイロニカルさを感じたのか、4行目で若干の皮肉を込めているかのような言い方で「思ったよりも優しい」と言います。音調や話し方(ぐーっと津山主任の顔を覗き込むように話しかけるかんじ)と「思ったより」がユーモラスさを生み出していますが、「優しい」と感じているのは真。

ここからちょっとユーモアの方向性が変わります。7行目で澪さんはあたかも真剣なトーンを装って発話をしますが、発話の内容にユーモアを持たせます。ユーモアを含ませる対象を、声のトーンから発話内容へと転換したわけです。津山主任もそれに気が付き、澪さんの冗談に乗って発話のトーンはあたかも通常通りにして8行目の発話を行い、2人で笑い合う、というなんとも平和な空間。

 

と、思いきや。

 

12行目で「冗談ですよ」とアップシフトをする津山主任。

そもそも津山主任が澪さんに対してこれだけハッキリと敬語を使うのがたぶんここくらいだと思うんです。別れのシーンですら“いつもどおり”を演じてあえて心的距離の近さを保っているようにタメ語や笑いで演出しているのに(号泣)。

それに、その直前2人とも笑い合っているのだから、冗談である、ユーモアを楽しんでいる、ということは互いに認識しているので、アップシフトしなかったとしても、「冗談だよ」なんて言う必要がないはずなのです。

ということまで考慮したうえで、12行目でアップシフトした理由として考えられるのは、officialさを含んだ敬語形式によって8行目の自らの発話を冗談であると明確に示すことで、単にそれが冗談だった(真か偽かは明示しない)というだけでなく、「女性に対してだけ優しい」という発話内容を否定する意図が明確にあったからだと考えられます。

 

これ、今3時間くらいずっと考えていたのにうまく説明できないのですが…。

 

ここでの津山主任の敬語は聞き手への敬意ではなくofficialさを示すものであることは、たぶん間違いない。そしてそれと対照的になるunofficialさというのは、7行目から11行目にかけての会話だと考えられる。unofficialさというのは、一種の遊びでもあり、メインの話題ではない、ということ。ここでも、ユーモアを持った会話のやり取りで笑いを生み出している。それをofficialな形式で指摘することで、メインの話題として直前の発話をある種“否定”する。そこまでして伝えたいことがあるはず……

 

で、私、気づいたわけです。

この回の前半、ストーリー的には数日前に、

津山主任は、澪さんに、告白をしている、

ということに。

 

「女性に対して優しい」の否定をすることで示そうとしていることは、

「性別関係なくみんなに優しい」ということではなく、

 

「あなたが女性だから優しくしているんじゃなくて、あなただから優しくしたいんですよ」

という、いわばこれは二度目の告白_____________

 

分析に私情を挟むのはよくないとは重々承知しているのですが、流石にこの可能性に気付いたときには騒ぎましたし、どう頑張っても冷静に分析できませんでした。

 

たぶん、私の思い込みではないと思うんですが、うまく説明できなくてもどかしい。

(一晩寝かせて考えたけどやっぱりわかんない)

なにかご意見あればぜひご一報ください。

 

 

●おわりに。

 

さあ今回も非常にボリュームたっぷりでお届けしました。

文字数的に、卒論の内容書いた初回のはてブより長い。笑

ここまで読んでくださったみなさん、本当にありがとうございます。

 

ドラマだと、やっぱり自然会話とは少し見方が変わるような気がします。

特に今回のような、恋愛感情が絡む垂直関係の2者間会話は、とても難しいというのがわかりました…。

でも、でも、それ以上に楽しいし、わからなくても直感的にきゅんとするのは確かなんですよね。その、きゅん、をほっとけないからこんなふうに書いてしまうのです。

 

分析すればするほど、心理学とかも関係してくるんだろうなあ、という気持ちになります。

初心者にもわかりやすい入門書みたいなものあれば、マシュマロやDMでオススメしてください。読んでみます。

 

 

では。また気が向いたときに、思い出したようにつらつらと書きに来ます。

ありがとうございました!

 

 

[参考文献について]

参考文献は過去の私のはてブに掲載しているものです(雑ですみません)。